借地契約の期間満了が近づき、地主から「自分で使いたいから更新しない」と通知された、あるいは地主として「有効活用したいが立ち退かせられるか」とお悩みの方も多いでしょう。

現代の裁判実務において、立ち退きの成否を決める「正当事由」の判断は、単なるラベル(住まいか事業か)では決まりません。

裁判所は、「本当にその土地でなければならない切実な理由があるか」、「借地人の生活や事業にどれほどの致命的な影響があるか」という実態を極めて厳格に比較衡量しています。

裁判所は、「本当にその土地でなければならない切実な理由があるか」、「借地人の生活や事業にどれほどの致命的な影響があるか」という実態を極めて厳格に比較衡量しています。

本記事では、平成25年以降から令和6年に至る最新の裁判例を分類し、立ち退きが「肯定されたケース」と「否定されたケース」を対比させながら詳細に解説します。

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第1 立ち退き判断の「3段階プロセス」

1 更新拒絶が認められるかの判断構造

借地の契約期間が満了した際、地主が更新を拒絶して立ち退きを求めるには、法律上「正当事由」(正当な理由)が必要です (借地借家法第6条)。

この正当事由があるかどうかは、裁判などにおいて以下の「3つの段階」を踏んで総合的に判断されます 。

  • 第1段階(土地使用の必要性) 
    地主と借地人の双方にとって、その土地がどれくらい必要かを比較します。
    土地使用の必要性がどちらが強いのか、この観点が判断の基軸です。
  • 第2段階(従前の経過と利用状況)
    第1段階だけで判断が難しい場合、これまでの地代の支払い状況、権利金の有無、建物の老朽化具合などを考慮します。
  • 第3段階(立退料の提供)
    上記の事情だけでは正当事由として少し弱い場合に、地主からの「立退料の支払い」が最終的な補完要素として検討されます。
借地人と地主は、土地使用の必要性を第1段階として正当事由があるかを競い、第2段階として従前の経緯や利用状況が見られます。第3段階として、正当事由が足りない場合に立退料という問題が生じます。

2 立ち退きが認められない場合、地主はどうなるのか?

地主側の「土地を使いたい理由」が弱く、借地人側の「住み続けたい理由」が勝っている場合、地主がどれだけ高額な立退料を提示しても、立ち退きは認められません

地主は立ち退きを強制することはできず、これまで通り借地人に土地を貸し続け、契約関係を継続しくことになります。

第2 土地利用目的別の裁判例

1 利用目的(居住用か事業用か)による分類

土地利用の必要性の判断においても、居住目的か事業目的かによる分類は整理しやすいため、利用目的により裁判例を整理します。

2 パターン1:【自己居住用(借地人) 対 自己居住用(地主)】

双方ともに「住まい」とするケース。

借地人の居住権が最も強く保護されますが、「現実に住んでいるか」、「介護等の切実な事情があるか」が分かれ目となります。

番号裁判例事案の概要判決の内容
1東京地判 平27・3・4【肯定】
賃貸人は定年を控え、共有持分を持つ本件土地への自宅建築を希望 。
一方、借地人は建物を所有しているが、実際には誰も居住しておらず空き家状態であった 。
【立退料:400万円】
借地人が現に居住しておらず使用の必要性が低いと判断。
長年低廉な地代で利益を享受してきたことも考慮し、400万円の支払と引換えに明渡しを認めた。
2東京地判 令2・9・8【肯定】
賃貸人は、妻の高齢の家族を呼び寄せて介護等をするため、自宅兼賃貸用共同住宅を建設する計画を主張。
借地人は借地権譲渡により現在は賃借人として居住していた。
【立退料:9,341万円】
賃貸人の必要性はやや弱いが一定程度認められる一方、借地人側も長期の利用実績があり一定の必要性がある。
多額の立退料の支払を条件に正当事由を認めた。
3東京地判 平29・10・18【否定】
地主側は、精神的不調を抱える娘や無職の息子との同居をサポートするため、本件土地に2階建て集合住宅を新築する計画を主張。
借地人は80代後半の女性。中学生の頃から60年以上一貫して居住し、現在も一生住み続けることを強く希望していた。
【立退料:200万円提示も棄却】
借地人が過去60年の人生の大半をこの地で過ごし、他に移転先も見当たらない実態を重視。
地主側の必要性を認めつつも、借地人の居住の必要性が勝るとし、200万円の提示では不十分として退けた。
4東京地判 令5・8・3【否定】
賃貸人は複数の土地を所有。本件土地に3階建て集合住宅を建築する計画を主張。
借地人は77歳の高齢で身体障害(要介護3)があり、子と同居して生活の本拠としていた。
【立退料:1500万円提示も棄却】
借地人の健康状態や経済状況から転居は極めて困難。
居住の必要性が地主を圧倒的に上回ると判断され、1500万円の立退料提示でも正当事由は認められなかった。
5東京地判 平28・1・20【否定】
賃貸人は本件土地に建物を建築し居住すると主張したが、計画が抽象的で具体性に乏しかった。
借地人は同居親族とともに長年生活の本拠として利用していた。
【立退料:1300万円提示も棄却】
借地人の居住の必要性が高いのに対し、賃貸人の計画には居住の確実性が認められない。
立退料を考慮しても正当事由はないとした。

3 パターン2:【自己居住用(借地人) 対 非自己居住用(地主)】

借地人が「住まい」、地主が「事業・投資」目的。

原則は借地人有利ですが、地主側の計画に「高い公益性」がある場合に逆転の可能性があります。

番号裁判例事案の概要判決の内容
6東京地判 平30・3・30【肯定】
賃貸人は県下有数の総合病院
車椅子患者の苦情解消等のため、正面玄関至近の本件土地を「身体障害者専用駐車場」とする高い公益的必要性があった。
借地人は70年以上居住し破格の低地代を享受。
【立退料:200万円】
病院側の公益的ニーズが極めて高いと評価。
借地契約は一定の目的を達したとして、200万円という比較的少額の立退料で正当事由を認めた。
7東京地判 平25・3・14【肯定】
賃貸人が大型スーパー建設計画(経済的利用)を主張。
経済的に合理的な計画であった。
借地人は居住中だが、代替物件への移転自体は十分可能な状況であった。
【立退料:5000万円】
賃貸人の経済的利用の必要性が認められ、借地権価格等を基準とした5000万円の立退料で正当事由を補完した。
8東京地判 平25・9・26【肯定】
賃貸人は将来的な高度有効利用を希望。
借地人は居住しており更新料も授受されていたが、地主側に特段の必要性はない事案。
【立退料:1500万円】
賃貸人からの申出はなかったが、1,500万円の立退料支払をもって初めて正当事由が具備されると認めた。
9東京地判 令6・11・28【否定】
賃貸人(不動産会社)が自社ビルの建築を計画。
借地人は90歳超の高齢で家族と同居し、併設するアパート賃料を生活の糧としていた。
【立退料:6,188万円提示も棄却】
借地人の生活基盤としての必要性が極めて高い一方、賃貸人の自社ビル計画には場所の近接性などの必然性が認められないと判断された。
10東京地判 令6・6・7【否定】
賃貸人は共同住宅建設を計画したが、他地権者との交渉も未了で準備不足 。
借地人は80歳。
50年以上居住し、1階の賃料収入と年金で生活。
【立退料:3,500万円提示も棄却】
賃貸人の計画は準備が整っているとは言い難い。
借地人の切実な居住・生活必要性が優越し、3,500万円の提示でも否定された。
11東京地判 令6・3・26【否定】
賃貸人は自宅兼賃貸物件の建築を計画 。借地人は2階に家族と居住し、1階で洋服店を経営。
これが唯一の生活の糧であった。
【立退料:6,990万円提示も棄却】
建物の耐用年数が残っており、借地人の生活・営業基盤としての必要性が高い。
賃貸人の計画は経済的合理性が限定的であるとして否定された。

4 パターン3:【非自己居住用(借地人) 対 自己居住用(地主)】

借地人が事業・賃貸で使用し、地主が「住まい(または本来の目的)」を必要とするケース。

立退料による解決が図られやすい類型です。

番号裁判例事案の概要判決の内容
12東京地判 令6・11・27【肯定】
賃貸人は寺院
境内に納骨堂等を設置する計画があった。
借地人は相続により取得したが現に居住しておらず、他所に自宅があった。
【立退料:2500万円】
賃貸人の必要性は差し迫ったものではないが、借地人の必要性も乏しいため、借地権価格の約20%の立退料で補完を認めた。
13東京地判 令6・1・25【肯定】
賃貸人は長男の自宅建築のため土地を必要とした。
借地人側は相続後も一度も居住しておらず、建物は事実上の「空き家」状態であった。
【立退料:5000万円+建物買取代金300万円】
借地人が現に住んでいない事実を重視。
地主が完全な所有権を回復する増分価値を考慮し、限定価格の50%(5,000万円)で明渡しを認めた。
14東京地判 令4・3・17【肯定】
賃貸人は高齢の借家住まい。階段の上り下りが困難で、本件土地に自宅兼貸家を建築したいと希望。
借地人は居住しておらず、第三者に賃貸して収益を得ていた。
【立退料:600万円】
借地人にとって賃料収入は生活に不可欠ではなく、賃貸人の必要性が上回ると判断。
約70年の利用期間も考慮し、借地権価格の約1割で認容。
15東京地判 平29・11・30【否定】
賃貸人は現在のアパートが手狭で自宅を新築したいが、他の物件購入も検討。
借地人は本件建物を賃貸し、その収入を生活費の補填としていた。
【立退料:提示なしで棄却】
賃貸人の必要性が「高度」とは言えず、立退料の支払意思も一切なかったため、正当事由は認められないとした。

5 パターン4:【非自己居住用(借地人) 対 非自己居住用(地主)】

非居住の事業者間の対立です。

再開発計画などの具体性が鍵となります。

番号裁判例事案の概要判決の内容
16東京地判 平30・6・27【肯定】
賃貸人は道路予定地の買収後に、残地と本件土地を一体開発して高度利用する計画 。
借地人は全国展開の大手ドラッグストア。
【立退料:1億3000万円】
借地人が移転ではなく「廃業」を前提としていた点も考慮 。
賃借権評価額の約5割強にあたる高額立退料の支払いをもって正当事由を認めた。
17東京地判 平29・6・15【否定】
賃貸人は所有アパートの避難通路確保を目的としたが、自らの行為(過去の新築時)で通路を塞いだ経緯があった。
借地人は陶器店倉庫として利用。
【立退料:1000万円提示も棄却】
避難通路がない状況は賃貸人自身に起因する面があり、借地人を追い出してまで開設する必要性は認められないとして否定された。

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第3 裁判例からみる「正当事由」の判断ポイント

1 「空き家・非居住」の実態

【事例1】【事例13】【事例14】のように、借地人が現に住んでいない「空き家事案」や「相続したが他所に自宅がある事案」は、地主側の必要性がそれほど高くなくても、一定の立退料との組み合わせで立ち退きが認められやすい傾向があります。

2 家賃収入など「生活・生計の命綱」か否か

【事例10】【事例11】のように、高齢の借地人が建物の賃貸収入や店舗での営業収入を生活費に充てている場合、裁判所はこれを単なる事業ではなく「生存権に関わる生活基盤」と捉え、地主の有効活用計画よりも優先して保護する傾向にあります。。

3 地主側の「計画の真剣度と公益性」

単に「高く売りたい」「建て替えたい」という希望だけでは足りません。病院の駐車場(事例6)や、長年の再開発計画(事例16)のように、客観的な証拠(図面、資金計画、行政協議等)で示される「必然性」が重要です。

4 裁判所の注目ポイントのまとめ

借地借家法6条の正当事由の主軸となる「地主・借地人双方の土地使用を必要とする事情」については、裁判例を分析すると、裁判所の注目ポイントを指摘することができます。

  • 代替可能性
    ⇒ 他に使える土地・建物があるか
  • 切迫性・緊急性
    ⇒ 必要性の発生時期・程度)
  • 依存度
    ⇒ 当該土地への経済的・生活的依存の深さ
  • 用途の固定性
    ⇒ その土地でなければならない理由の有無

第4 よくあるご質問

地主から「自分で土地を使いたいから出て行ってほしい」と言われました。
すぐに出なければなりませんか?

すぐに出て行く必要はありません。

法律上、地主が借地契約の更新を拒絶するには「正当事由」が必要です。

「自分が使いたい」という地主側の理由だけでなく、「借地人がそこに住み続けなければならない事情(生活の必要性)」とが厳格に比較されます。

借地人側の事情が勝っていると判断されれば、立ち退きは認められません。
まずは焦らず、合意書などにサインする前に専門家へご相談ください。

地主側からの質問です。相場以上の高額な立退料を払えば、必ず立ち退かせることができますか?

いいえ、必ずしもそうとは限りません。

立退料は、あくまで地主側の「土地を使う必要性」を補完するための要素(第3段階)に過ぎません。

地主側の「土地を使いたい理由」が曖昧で弱い一方で、借地人にとってその土地が生活や事業の命綱となっているような場合、いくら高額な立退料を提示しても裁判所で立ち退きが否定される可能性が高いです。

借地人が長年住んでおらず、実質的に空き家になっています。この場合でも立ち退きは難しいのでしょうか?

空き家の場合は、立ち退きが認められる可能性が高くなります。

少なくとも、借地人が現実にその土地(建物)を使用していない場合、借地人側の「その土地を必要とする事情」は弱く見られやすいです。

そのため、地主側に一定の土地利用計画があり、適正な立退料の提供などを組み合わせることで、正当事由が認められやすくなる傾向にあります。

但し、荷物を残していてたまに使っている、将来戻る予定がある、相続手続中で一時的に無人なだけ、賃料・地代はきちんと払っている、建物管理もされている、といった事情がある場合には、借地人の必要とする事情を補強するものとなりますので、やはり正当事由をめぐる総合考慮の争いになります。

借地上に建てた自宅の一部を店舗にして、その収入で生活しています。立ち退き裁判になった場合、事業用として扱われて不利になりますか?

店舗併用だから不利かではなく、明渡しでどれだけ生活と営業が壊れるかを主張・立証できるか、が勝負になります。

具体的には、家計に占める店舗収入の割合、他に住居がないこと、移転先で同種営業が困難なこと、長年その場所で顧客を蓄積してきたこと、家族の居住実態などです。

そのため、その土地を失うことが生活にどれほど致命的な影響を与えるかをしっかりと主張・立証することで、立ち退きを退けやすくなります。

第5 不動産トラブルに強い弁護士に相談する

弁護士 岩崎孝太郎

借地の立ち退きトラブルは、「長年の人間関係」と「不動産という高額な財産」が絡むため、当事者同士の話し合いだけでは感情的になり、こじれてしまうことがほとんどです。

地主の方へ
単に「更新しません」「立退料を払います」と伝えるだけでは、法的な「正当事由」は認められません。
ご自身の土地利用計画が裁判所でどう評価されるか、事前に戦略を立てることが不可欠です。

借地人の方へ
地主から突然立ち退きを要求されても、焦って合意書にサインしないでください。
あなたの生活を守る強い権利が法律で保障されています。

立ち退き交渉は、最初の一手が肝心です。
手遅れになる前に、まずは借地・不動産問題に強い弁護士にご相談ください。

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