借地契約が期間満了により終了した場合、借地人は建物を壊して現状にて土地を返す必要があるのでしょうか。

地主(土地所有者・賃貸人)が、借地契約の終了に際して、建物を買取る必要性について心配している。

借りたものは元に戻して返すという原則からすると、まだ利用できる建物でも、取り壊してから返すのが筋が通っているといえそうです。

もっとも、借地制度は、土地所有者に代わって借地人が土地に資本を投下して利用する制度です。

借地人の投下資本の回収を保障することで、借地人は安心して借地に建物を建てて利用することができます。

そして、まだ利用できる建物であれば、そのまま利用を継続した方が国民経済上も損失を防げるといえるでしょう。

このような要請に応え、借地人が地主に対して建物を時価で買い取ることを請求できる権利を認めました。

これを「建物買取請求権」といいます。

地主(賃貸人・土地所有者)と借地人との借地契約満了後、借地人から地主に対して建物買取を請求する。
建物買取請求権のイメージ図

地主にとってみれば、強制的に建物を買わされてしまうなんて、非常に問題がある制度だと感じてしまうでしょう。

ただ、地主にとっては、これまで借地権が設定され自由に利用することができなかった土地が、借地権の負担なく戻ってくるので、その経済的利益は非常に大きいものといえます。

そのため、この建物買取請求権は、借地人と地主の利害調整を図りながら、社会の経済的損失を最小限に抑える制度として制定されました。

建物買取請求権は、地主の所有権回復という経済的利益の大きさを考慮し、かつ、借地人の投下資本の回収を確保するという利益を調整する制度として制定されました。

建物買取請求権のこのような制度趣旨や利害調整機能にかんがみ、特約によっても排除することはできません(定期借地権を除きます)。

この記事では、建物買取請求権の成立要件や、買取を請求できる金額など、建物買取請求権の概要を分かりやすく解説します。

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第1 建物買取請求権とは?分かりやすい概要説明

1 建物買取請求権が認められる場合

建物買取請求権は、借地借家法において、2つの場面で認められています。

  • 借地権の存続期間が満了した場合に、契約の更新がないとき(借地借家法13条)
  • 賃借権の譲渡・転貸について地主の承諾が得られないとき(同14条)

①契約の更新がないとき

主には、借地人が契約期間満了の際に更新請求をしたけれども、地主が正当事由を備えて更新拒絶をした場合(借地借家法6条)があります。

借地人からも、契約の更新請求をせずに、契約の終了を前提として、買取請求を行うこともできます。

ただ、地主にとって不測の事態とならぬよう、地主は更新を認める意思を表示して買取りを逃れることができます。

契約期間が満了した場合の規定ですので、借地契約が合意解除された場合には、建物買取請求権は発生しません。

(建物買取請求権)
第13条1項
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。

🔗e-Gov法令検索「借地借家法」

②地主の譲渡・転貸の承諾がないとき

具体的な場面としては、競売で借地家物件を落札したけれど、地主の了承を得られなかったり、借地非訟で裁判所の許可が得られなかった場合(2ヵ月以内の申立てをしなかった場合も含みます)が挙げられます。

他にも、借地人から借地権を買受けたが地主の承諾を得られなかった場合や、無断譲渡をして地主から借地契約を債務不履行解除されてしまった第三者が、地主に対してやむなく建物買取請求権を行使する場面が想定できます。

無断譲渡によって債務不履行解除されたとしても、第三者は建物買取請求権を行使することで、最低限の補償を受けることができます。

もっとも、借地借家法14条は、あくまでも誠実な借地人を保護する規定なので、賃料の不払い用法違反などの債務不履行によって借地契約が解除された場合には、買取請求権認められません(最判昭35年2月9日)。

(建物買取請求権)
第14条
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。

🔗e-Gov法令検索「借地借家法」

2 買取請求権の行使方法と効果

特に制限はありませんので、理屈上は口頭で地主に伝えれば足ります。

実際には、いつ行使したのか、相手は行使された事実を否認しないか等の問題がありますので、行使したことが形で残るよう、書面で行うことがスタンダードです。

そして、買取請求権は形成権とされ、借地人の一方的な意思表示によって、地主との間に建物「時価」額での売買契約が成立したのと同様の法律関係が発生します。

形成権という一方的な意思表示によって発生しますので、地主の意向(買取りたくないなど)は関係ありません。

3 建物買取請求権の行使時期(期限)

地主より、借地契約は期間満了により終了したとして建物収去土地明渡請求がなされた場合に、借地人はいつまでに建物買取請求権を行使すれば良いでしょうか。

判例では、建物収去土地明渡請求を受けた裁判の敗訴確定した後に、建物買取請求権を行使して、建物収去土地明渡の強制執行を止めるよう求めることができるとされました(最判平7年12月15日)。

ただ、個別事情によっては権利濫用として買取請求が否定されることもあります(東京地判平13年11月26日)。

契約の更新が争われる場合、借地人にとって建物買取請求権の主張を行うことは、更新しないこと(裁判では敗訴)が前提となってしまいます。

そうすると、更新の可否を争っているのに、敗訴を前提とした建物買取請求権にも行使制限がかかってしまうとすると、借地人にとっては非常に厳しいものとなってしまいます。

この意味で裁判実務における行使期間制限は妥当なものといえますが、建物がなくなっては買取請求権も行使できませんので、建物収去土地明渡の裁判が確定するような場合には、速やかな行使をすべきです。

第2 建物の時価額とは?

1 「時価」とはいつの時点か?

建物買取請求権では、建物の「時価」で買取る法律効果が発生します。

この「時価」の算定基準時は、建物買取請求権を行使した時となります。

期間満了でも、更新拒絶の時でもありません。

2 建物の「時価」

建物の時価額は、客観的に定められます。

交渉の過程で、当事者が提示した金額には影響を受けません。

当事者が金額での合意をすればよいですが、そうではなく裁判手続などで決められる場合は、不動産鑑定士による鑑定が必須といえます。

3 「時価」の算定方法

建物の「時価」について、建物の新築と同時に買取請求がされた場合には、建築費相当額が時価となります。

期間が経過している場合は、その建物と同等の資材をもって買取請求当時にその建物と同様の建物を新築する価格から、その建物が使用に耐えない状態に至る総耐用年数に対し相対的に考えられる実際の経過年数に応じた減損価格を控除した純建物価格によります(札幌高函館支部昭34年4月7日)。

4 時価と借地権価格・場所的利益について

時価の構成要素に、借地権価格は含まれません。

ただ、建物自体の価額に場所的利益を加算します。

これは、「特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益であり、また建物の存在する場所的環境を考慮に入れて該建物の取引を行うことは一般取引における通念であるから」(最判昭35年12月20日)と説明されています。

場所的利益を算定しない場合には、建物が辺鄙な場所にあることや、繁華街にあることに関係なく、どこの場所に建っていたとしても同じ価格となります。

しかし、建物の利用にあたっては、その敷地も含めて利用しますので、その建物が建つ場所的な影響を考慮せずに、時価を算定することはできない、というのが裁判所実務(現在の考え方)です。

5 場所的利益の算定方法

場所的利益とは、借地権価格そのものではありませんが、建物の価格の問題ではなく、土地の価格の問題で、場所的利益を考慮するとは、実質的には借地権の一部を考慮していることに他なりません。

この算定法は、借地権価格に依拠し、そのうちの土地上に建物が存することによる事実の利益、借地人の寄与配分利益がどれだけか、すなわち、借地権価格から適法な借地権の存在ないしは借地法によって保護される利益の経済価値分を控除することによって求められます。

もっとも、実際の算定を検討するにあたっては、裁判例のおいても確立した検討方法があるわけでもなく、様々な判断が出ているのが実情です。

第3 建物買取請求権に関連する問題など

1 建物に抵当権が設定されている場合

抵当権の設定登記(仮登記を含みます)がなされている場合であっても、建物の時価はこれらがなかった場合を想定して算定されます。

ただ地主が抵当権実行のリスクを負担するのもおかしな話ですので、抵当権消滅請求(民法577条)等がなされるまで、代金の支払いを拒絶できると考えられています(最判昭39年2月4日)。

2 建物が賃貸されている場合

建物に借家人がいる場合の建物の時価は、借家人が存在しないとした場合の建物の時価から借家権価格控除した価格となります。

ただ、借家人に対して明渡しの判決が出ている場合は、空き家価格によって算定されます。

3 無断譲渡による借地契約解除後に、地代の不払いがある場合

裁判例の事案は、第三者が賃借土地上の建物を買受けましたが、地主の承諾が得られず無断譲渡を理由に契約が解除され、さらに解除後の賃料不払いを理由に再度解除がされた後に、当該第三者が建物買取請求権を行使したケースです。

判例は、賃料の不払いはなく、賃貸借契約が賃借権の無断譲渡を理由として解除された時は、賃貸人はそれ以降の賃料の請求することができず、その後に賃料相当損害金の不払いが生じても、これを賃料の不払いを同視して賃貸借契約を解除する余地はない、と判断しました(最判昭53年9月7日)。

4 建物が所有者の異なる土地に跨っている場合(跨り土地)

所有者の異なる数筆の土地に跨って(またがって)存在する建物についての建物買取請求権は、賃貸人の所有地上の部分について買取請求権はありますが、当該賃貸人の所有地上の存する建物部分が区分所有権の対象となる場合に限る、というのが最高裁の考え方です。

第4 借地権のご相談は専門の弁護士へ

弁護士 岩崎孝太郎

建物買取請求権は、借地契約の借地人、地主の利害調整を果たす役割を担っています。

ただ、地主にとっては、建物の需要の有無にかかわらず、買取りを強制されるもので、大きなリスク要因にもなり得るものです。

建物買取請求権が発生しているか不安な場合(成立要件など)や、建物の時価額に不安がある場合には、借地権に詳しい弁護士へのご相談をお勧めしています。

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