借地権の相続でよくあるご相談。
相続なのに、地主より承諾料の支払いを求められることがあり、その対応に悩む相続人のイラスト。
借地権の相続のご相談

借地権の相続では、地主より承諾料の支払いを求められた場合に、支払う必要性があるか(どのように対応すべきか?)というご相談が一番多いです。

相続の場合であれば、地主の承諾は不要ですので、承諾料(名義書換料)も法律的には支払う必要はありません

この記事では、借地人に相続が発生した場合、地主の承諾が必要か、遺産分割までの地代は誰が負担するのかなど、借地権の相続で問題となりやすい点について解説をしました。

なお、借地権付土地(底地)の相続の場合は、こちらをご参照ください。

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第1 (Q&Aのまとめ)借地権の相続

借地権を相続した場合、地主の承諾は必要でしょうか。                                   

借地権は、相続開始と同時に相続に包括承継され、「譲渡」に該当しません。

つまり、地主の承諾は「不要」です。

遺言なのか、遺産分割なのかによって、地主の承諾の有無は変わりますか。                                   

遺言でも遺産分割でも法的効果は変わりませんので、いずれも地主の承諾は「不要」です。

借地権を相続したことを知った地主より承諾料(名義書換料)を求められました。
支払必要はありますか。

法律的に支払い義務はありません。
裁判など、争えば借地人(相続人)が勝つでしょう。

ただ、相続でも承諾料を請求する地主は多く、地主との関係を円満に保っておくために、(金額を交渉するなどして)支払う話は聞きます。

法的義務ではないため、ご自身の意向によって決めてよいと考えています。

私は、借地上に建物を所有していますが、子どもらが争わないよう遺言を残そうと思います。
借地権付の不動産について、注意すべきことはどのようなことでしょうか。

借地権を有しない建物所有者(共有者も)を生じさせないように気を付けてください。

たとえば、兄に建物を、弟に借地権を相続させてしまうと、地主に借地権を対抗できなくなり、兄弟が土地・建物の明渡しを迫られることになりかねません。

特段の事情がない限り、建物の相続人は、従たる権利として借地権も相続しますので、借地権と建物を別々に相続させることは避けるべきと考えています。

遺産分割がまとまりません。
地代(借地料)は誰が支払うべきでしょうか。

地代は、最終的に建物(借地権)を相続する人が支払義務を負います。

誰が借地権を相続するか決まらない場合であっても、少なくとも遺産分割まではどのような負担をするかは決めておく必要があります(遺産分割成立時に精算する内容でも可能)。

そうしないと、地代が滞納となってしまい、借地権が債務不履行により解除されてしまうリスクがあります。

法律的には、地主から支払いを求められた場合には、各相続人が全額について支払義務を負います。

相続発生前に、地代の滞納が少々ありました。
滞納分は、法律的にどのように扱われますか。

相続開始(発生)に発生した滞納分については、債務と同様に扱われますので、法定相続分に応じて分割して相続されます。

相続開始は、借地権を相続する人のみが債務を負います。

相続の開始(発生)前後で、地代の取扱いが異なる点は注意しましょう。

借地権付建物を相続しましたが、地主が誰かも連絡先も分かりません。
どのように地主と連絡を取ればよいでしょうか。

借地権の設定されている土地の登記簿を、法務局で調べます。

オンラインでの不動産登記簿の郵送🔗登記ねっと)や、PDFによる簡易の確認🔗登記情報提供サービス)も利用できます。

第2 借地権を相続する場合の地主の承諾の必要性

1 借地権と相続性

借地上建物と同じように、借地権も不動産に関する権利として相続財産になります。

借地権の相続は、借地上の建物と借地権が一体となったものと考えられ、相続開始時に相続人に包括承継されます。

相続は、贈与、譲渡などの行為が介在するものではありませんので、地主の承諾は、不要です。

2 地主から名義書換料(承諾料)を請求されたら?

法律的には、支払う必要性はありません。

裁判などを起こされたとしても、借地人に支払い義務が認められることはないでしょう。

あとは、法律的な問題は別にして、借地人として地主への配慮等から支払いを行うか、法律的に支払い義務がないことを説明して支払いを拒否するか、いずれもあり得る対応と考えます。

3 (参考)相続発生前の相続人への譲渡・贈与

相続による争いを事前に防止するなどの理由から、親族間において借地権を譲渡・贈与することがあります。

この場合、基本的には譲渡(贈与)行為が介在している以上、地主(賃貸人)の承諾が必要となるのが原則で、承諾料を支払っている場合もよくあるのではないかと思います。

もっとも、法的紛争に発展している事例をみると、多くのケースにおいて債務不履行解除が否定されています。

否定の理由としては、将来の相続の先取りという意味合いが考慮されているようです。

解除が否定された裁判例

  【内容】【裁判日時等】
同居している子に譲渡した事案(利用形態に変化なし)東京地判平31年2月7日
子への譲渡で利用形態に変化なし。
地主の代理人からは相続発生時に譲渡を提案した事情もあった。
東京地判平30年1月23日
長男への譲渡(利用形態に変化なし)東京地判平26年4月14日
子への譲渡で実質的に相続の先取り東京地判平19年4月25日
実父の後妻からの死因贈与。
譲受人は実父の唯一の相続人であり、土地の利用・地代の支払等に変化なし。
東京地判昭58年11月17日
共同相続人間の譲渡で、利用形態に変化なし東京地判昭48年1月26日
他の共有者(孫)に対する持分の譲渡東京地判昭40年9月21日

解除が肯定された裁判例

親族間の賃借権の譲渡・転貸でも、信頼関係を破壊しない事情がなければ、原則通り解除が肯定されます。

【内容】【裁判日時等】
子への譲渡であるが、会社債権者の追及を逃れる目的があった。大阪地判平8年6月28日
娘の譲渡だが、娘への譲渡を隠して裁判上の和解を成立させるなどの行為があった。東京地判平19年3月22日

第3 借地権に相続が発生した場合の法律関係

1 借地料(地代)の支払いの問題

借地権の相続人が、相続開始時(被相続人死亡時)からの地代等の支払債務を負担します。

遺言による場合は、遺言の効力発生時(被相続人死亡時)に、相続します。

また、遺産分割の場合でも、相続開始時に遡って権利を相続しますので(民法909条本文)、遺言の場合と差異はありません。

ただし、相続開始時までの未払地代の債務は、相続人間で負担者や負担割合を定めたとしても、債権者に対抗することはできず、法定相続分に応じて分割して相続されます。

相続の開始前後によって、未払がある場合の借地料(地代)の取扱いが異なります。
相続発生前は法て相続分に応じて相続されますが、相続開始以後は借地権を相続する相続人が地代を負担します。
相続の開始前後で、未払債務の扱いが異なります

2 遺産分割が成立するまでの地代の支払い対応(共同相続の場合)

遺言がある場合には、その内容に従って相続手続は進められます。

これに対して、遺産分割を行う必要がある場合に、相続開始から遺産分割が成立するまでに時間がかかってしまうことがあります。

この場合の注意点は、地代等は不可分債務といって、地主は共同相続人の1人に対して全額を請求できることです。

遺産分割が成立する前の共同相続人であれば、借地権を相続する予定がなくても、支払請求を受けた場合には、法律的に全額の支払い義務を負います。

もちろん、支払った後は、最終的には借地権を相続する人に支払いを求めることはできますが、これは共同相続人の内部の問題といえます。

混同したくないのは、底地(借地権付土地)が相続される場合です。

土地の相続の場合は、地代の請求権は地主の相続人が相続分に応じて相続される可分債権(分割債権)となります。

相続開始後、遺産分割成立までの地代(借地料)の法的性質
相続開始後、遺産分割成立までの地代(借地料)の法的性質

3 借地権の相続・遺言の作成で注意したいこと

借地権の相続を考える場合、建物の相続人が、建物の従たる権利としての借地権も相続します。

この場合に、借地権と建物の相続を別々にしてしまうと、建物所有者が借地権を有しない状態ができてしまい、地主から建物収去土地明渡請求を受けた場合に、借地権を対抗できなくなってしまいます。

建物所有権を片方の相続人に、借地権をもう片方の相続人に相続させるように、分離させて相続させる方法では、借地権を地主に対抗できなくなります。
建物所有権と借地権を分離させるダメな場合

上図では、建物を所有する兄は、敷地を利用するための借地権(敷地利用権)を有さないことになります。

一方、借地権を対抗するため必要な建物登記は、借地人(弟)と建物所有者(兄)が異なりますので、借地人(弟)も建物登記をもって借地権を対抗できません。

4 借地権を共同相続する場合の遺産分割方法

借地権を共同相続する場合、主に以下のように4通りの相続方法が考えられます。

  • 借地権を売却し、換価して現金を相続人間で分ける方法
  • 借地契約の期間終了を待ち、建物買取請求権を行使する方法
  • 借地権を共同相続し、借地上の建物を賃貸に貸出し、賃料収入を継続的に得る方法(共同の賃貸管理)
  • 特定の相続人が単独で借地権を取得し、借地権を取得した相続人が他の相続人に対して代償金を支払う方法

以下の理由から、一般論として、④による方法がベストだと考えます(次善策は①)。

①の借地権の売却には、地主の承諾が必要ですし、新たに買い手を探さないといけませんので、最終解決まで長期化するおそれがあります。

ただ、共有状態を解消する方向に向かっていますので、将来的な火種を消失させる点で評価できる方法といえます。

②は、契約期間が満了するまでの期間が短ければ合理的な選択肢になるでしょうが、そうでなければ検討から外した方が良い方法です。

③は、借地権物件を利用した投資は、利回りが良い事も多いようで、経済的合理性は高そうです。

ただ、共有状態が継続しますので、相続人間の人間関係に依存してしまうことや、共有者の誰かが死亡すれば、紛争の火種となりやすく、あまり推奨できる方法ではありません。

④は、代償金の算定の問題はありますが、不動産の共有を生じさせず、共同相続人間の歩調の乱れが最も生じにくい方法といえ、多くの場合でベストな解決策となるでしょう。

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第4 地主の立場(視点)から

1 地代の支払い

前述しましたように、共同相続(相続人が複数)の場合に、遺産分割が成立するまでは、地代の支払債務は不可分債務となりますので、相続人の1人に全額を請求することができます。

ただ、地主の視点(債権回収)から見ますと、相続人の全員を相手に地代を請求した方が、未回収のおそれは生じにくく、合理的といえます。

2 相続を契機に考えること

借地人に相続が発生した場合には、相続人らが借地権の換価を求めたり、建物の建替えの希望が出てくるなど、利用形態に変化が生じやすいです。

地主としては、借地権の買取りをする場合には、その費用を検討しなければなりません。

また、建替えを容認する場合には、建替承諾料だけでなく、借地権の残存期間の問題や、地代の増額などを検討する必要があります。

このように相続を契機として、借地契約をめぐる事情の変化があり得ますので、借地契約について借地人(相続人)を話し合う良い機会ともいえます。

3 長期の滞納があれば、解除も考える

借地人がお亡くなりになった後、地代の振込もなく、相続人の誰からの連絡もないことがあります。

相続人にとっても、被相続人が借地権を有していたことに関心を持たないことがあります。

このような場合、地主は弁護士などの専門家に依頼をして、借地人(被相続人)の相続人が誰であるかを調べ、地代の支払いを請求すべきです。

また、解除を行う場合には、地代の支払と異なり、相続人全員を相手に解除通知を出す必要がありますので、地主としても早めに動いた方が良いです。

民法544条(解除の不可分性)
1 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。

🔗e-Gov法令検索「民法」

なお、親子間であっても連絡を取っていない家庭もあり、この場合には一定期間の未払いがあったとしても、すぐに借地権が解除できるわけではありません。

あくまでも信頼関係が破壊されたかどうかは、個別具体的な事情によって異なりますので、相続が絡んでしまうと、通常の地代滞納のケースよりは長めの滞納期間が必要になってくるでしょう。

4 承諾料(名義書換料)は請求して良いか?

これまでに説明していますように、法律的に争った場合には、相続では承諾料の請求は認められないでしょう。

もっとも、地主の立場からすると、利用形態に差が生じていると感じることも多いでしょうし、法律上の根拠が全くない不当な請求というわけでもありません。

そうすると、相続の発生によって承諾料を請求すること自体を控えることなく、とりあえずは請求しておくという態度で良いのではないかと考えています。

第5 借地権の相続は弁護士に相談

1 借地権の相続にはトラブルが頻発

弁護士 岩崎孝太郎

借地権の相続では、借地人(相続人)からは地主から承諾料を請求された場合にどう対応すべきかというご相談が多くあります。

地主からは、相続手続に時間を要していることなどを理由に、今後の借地契約の展望に関するご相談が多くある印象です。

法律的な問題は、この記事でも解説をしていますに、決して複雑な面があるわけではありません。

ただ、借地契約という契約当事者の人間関係も絡み、感情的な対立や相違も生じやすく、様々な問題が発生しやすいです。

借地人も地主も、早めに専門家に相談することで、紛争が顕在化する前に解決する場合もありますので、お気軽にご相談いただきたいと思います。

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