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不動産の賃貸借には、借地借家法の適用を受けると聞きました。
借地借家法とはどのようなものでしょうか?
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借地借家法とは、一般に力関係で劣位に立つ賃借人の保護を目的として、賃貸人・賃借人のパワーバランスを保とうとする法律です。
民法の「契約の自由」に任せていては、所有権を持つ賃貸人の方が優位に立つことが多く、対等当事者として契約を締結できない恐れがあります。
たとえば、テナントを借りて事務所を営む、店舗を借りて飲食店を経営する、借りた土地に家を建てて生活をするなど、不動産の賃貸借契約は、賃借人の生活の根幹を支えるものとなります。
しかし、いつでも解約できて追い出されてしまっては、安心して生活することも、事業を営むこともできなくなります。
そこで、借地借家法は、①賃貸借契約の解除には、単に期間が到来しただけでは解除することができず、解除には「正当事由」がないとできないと定めました。
次に、②賃貸人・賃借人間で期間満了後の契約について、更新の合意ができなくても、原則として法律上当然に更新されていく「法定更新」が定められています。
そして、③これらを実効性あるものにするために、借地借家法に強行法規性を持たせ、当事者が法律の条項に反する合意を取り交わしたとしても、その合意規定を無効なものにしています。
強行法規性を持たせて、当事者間のパワーバランスを図ろうとするのは、消費者保護を図る法律や、適正な雇用関係を目指す労働法に近似するものがあります。
【賃貸人の視点からみる借地借家法】
裏返して言えば、賃貸人の視点から見ると、借地借家法によって半永久的に賃借人に物件の占有を続けられ、せっかく所有していても、思うような活用ができない恐れが生じることでもあります。
そのため、物件を所有する賃貸人だからこそ、借地借家法を理解し、適正な不動産運用を行っていく必要があります。
この記事では、借地借家法の三本柱(正当事由、法定更新、強行法規性)を解説します。
借地借家法に対して、漠然としたイメージしか持っていなかったとしても、この記事で具体的な内容を理解できると思います。
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第1 借地借家法が適用される賃貸借とは?
借地借家法は、賃借人の保護を目的としていること、そしてその目的達成のための三本柱として、①正当事由の要求、②法定更新の制度、③強行法規性をお伝えしました。
もっとも、借地借家法といえど、あらゆる不動産賃貸借に適用されるわけではありません。
借地借家法の保護を受けるべき賃借人であることが必要です。
それでは、借地借家法はどのような不動産賃貸借契約に適用されるのでしょうか。
1 借地契約 ~ 「建物所有目的」であること
建物所有目的の借地契約であること
借地上に建物を建てて賃借する場合、生活の拠点や事業活動の拠点として利用していく継続的契約であることから、他の契約類型として比較して賃借人保護の必要性が特に高いと考えられています。
そのため、借地借家法が適用される借地契約とは、「建物の所有を目的とする」契約であることが必要です。
借地借家法1条、2条にも建物所有目的が明記されています。
(趣旨)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
第1条
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
第2条
1号 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
建物所有目的でない借地契約とは?
建物所有目的が否定されるものとして、以下のようなものが挙げられます。
- 駐車場
- ゴルフ練習場
- 太陽光発電のパネル設置場所
- 自動車修理場
2 借家契約 ~ 「建物」の賃貸借契約であること
借地「借家」契約であることからも、「建物」の賃貸借であることが必要です。
「建物」と評価できるためには、建物の一部であっても、間仕切壁があり、物理的に他の区画と明確に区別され独立しており(独立性)、かつ、借主が独占的に使用できて第三者から占有を脅かされない構造(排他性)があれば、借地借家法の「建物」に該当するとされます。
この観点から、次のような点が問題になります。
建物の一部の賃貸借
建物の一部の区画が貸し出されている場合は、「建物」といえるでしょうか。
たとえば、デパートの出店区画の賃貸借契約や床貸しは、「建物」といえないと考えられます。
もっとも、次のような場合は、「建物」であると判断されました。
- 四方を天井まで隙間のない障壁で囲まれ、鍵付きドアのあったシェアオフィス
- 内装・設備費等をすべて自己負担で、保証金を差し入れたうえで自己のリスクで経営を行っていたスーパーマーケット内のパン屋売場部分
第2 ①正当事由の要求
1 借地における地主の更新拒絶
「契約」の大原則からすると、賃貸期間が契約で定められている以上、その期間が満了したら借主にどんなに必要性があろうとも、物件を返還しなければなりません。
しかし、借地借家法は「正当事由」の制度を設け、賃貸人が解約を申入れたり、契約期間満了に伴う更新拒絶を行ったとしても、容易には認めない建付けとなっています。
具体的には、借地借家法6条において、地主の更新拒絶が認められるためには、①地主及び借地人(転借地人を含む)が土地の使用を必要とする事情の他、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④地主が土地の明渡しと引換えに借地人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由を満たすことが必要とされています。
解約申入れや更新拒絶に「正当事由」を要求することで、賃貸借契約の継続を望む借地人の地位の安定を図っています。
ポイントは、①当事者双方の土地使用の必要性がメインの正当事由の存否を決する事柄であり、他の要素は補完にすぎないことです。
特に財産上の給付(立退料の提供)は、①~③を最終的に補完する要素となります。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
2 家主の解約申入れ・更新拒絶の有効性
借家契約においても、借地契約と同様に正当事由が必要とされます。
借地契約との相違は、「建物の現況」(以下の④に該当)が加わる点です。
借家契約には、28条によって、①賃貸人及び賃借人(転借人を含む)の双方の建物の使用を必要とする事情のほか、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合に、解約申入れや更新拒絶が有効になるとされています。
借地と同様に、賃貸人と賃借人の使用の必要性等が比較衡量されます。
そして、実務においては、(借地・建物の両方において)賃貸人が立退きを求める場合には、仮に正当事由を満たす場合であっても、立退料の支払がなされているケースが多いように思います。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
3 「正当事由」の要件充足性
このような正当事由の制度設計によって、継続的な賃貸借契約を望む賃借人を保護しています。
しかし、その判断要素の具体的な中身については条文で明らかにされていないため、過去の裁判例を検討するしかありません。
裁判例の多くは、特に建物賃貸借において老朽化や耐震性を理由とする立退請求が正当事由を満たすか争われています。
3.11の東日本大震災を境に流れは変わってきている印象を受けますが、この「正当事由」のハードルは賃貸人にとって決して低いものではない(むしろ高いというイメージ)ことを押さえておきましょう。
第3 ②法定更新の制度
1 法定更新とは
契約の原則からすると、契約期間が終了すれば、賃貸人・賃借人において新たに更新合意をしない限り、賃貸借契約は終了します。
しかし、新たな更新の合意ができるとは限りませんし、合意ができない限り、賃借人は常に退去を念頭に置かなければならないとすると、賃借人の保護を図ることはできません。
そこで、借地借家法は、更新の合意をしなくても原則として法律上当然に更新されていくという制度=法定更新の制度を設けています。
2 借地契約の場合
借地契約の期間が満了し、更新がなされなかった場合には、借地契約は終了します。
借地契約期間が満了しても、借地人が更新の請求をすると建物が存する限り借地契約は更新されます(5条1項)。
また、借地人が存続期間満了後土地の使用を継続している場合にも、建物が存する限り借地契約は更新されます(5条2項)。
いずれの場合にも、地主は異議を述べることができますが、この異議に正当事由が必要とされますので、正当事由がなければ借地契約の更新が認められ、借地契約は終了しません。
(借地契約の更新請求等)
第5条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
3 借家の場合
借地借家法は、契約期間に定めのある借地借家契約において、一方当事者が契約を更新したくない場合、まず、契約期間の満了する1年前から6ヵ月までの間に、相手方に対して契約を更新しない旨を通知する必要があると規定しています(26条1項)。
この間に更新拒絶の通知をしなかった場合、借家契約は法定更新されます。
仮に家主が更新拒絶の通知をしても、更新拒絶に正当事由が必要とされ(28条)、正当事由がない場合には更新拒絶が無効となって、法定更新されます。
さらに、家主が正当事由ある更新拒絶の通知をしても、借家人が使用を継続しており、家主が異議を述べない場合には、借家契約は法定更新されます(26条2項)。
(建物賃貸借契約の更新等)
第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
第4 ③強行法規性
1 片面的強行法規
借地借家法は、正当事由や法定更新をはじめとする賃借人保護の規定について、骨抜きとならないように、当事者間でこの法律に関する契約書を取り交わしたとしても、その規定を無効にする強行法規性を持たせています。
この強行法規性は、片面的強行法規とされ、強行法規に反する契約のうち、賃借人に不利なもののみを無効とすると規定し、賃貸人に不利な条項については有効とする規定となっています。
(強行規定)
第9条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
第30条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
2 借地の強行法規条項
借地の強行法規として、以下のように10項目が挙げられます。
たとえば、解約にあたり「正当事由は不要とする」などの条項を契約書に定めても、借地人に不利な条項であるため、無効とされます。
3 借家の強行法規条項
借家の強行法規として、以下の7項目が挙げられます。
たとえば、「家賃の減額請求は行わない」などの規定は、借家人に不利な条項となりますので、無効となります。
第5 関連問題
1 債務不履行解除の信頼関係破壊法理
借地借家法の規定ではありませんが、判例によって賃借人が債務不履行により解除される場合においても、信頼関係が破壊されない程度の軽微な違反では、解除が有効なものとされません。
このように、賃借人保護のため、裁判例においてもサポートしていることがうかがえます。
2 借地借家法が適用されない賃貸借(定期借地・定期借家・一時利用の契約)
定期借地・定期借家契約
以上のように、借地借家法によって賃借人の権利保護は強く図られています。
しかし、このような取扱いがあらゆる契約に適用されては、自分の不動産なのに半永久的に返してもらうことができない状態も生じてしまい、貸出しを渋る賃貸人が出現し始めるなど、弊害も指摘されてきました。
そこで、借地借家法の原則は維持しつつ、当事者が特別な契約に合意したならば、期間満了により必ず終了する、定期借地契約・定期借家契約の契約類型が設けられています。
賃借人の募集に苦労しにくい好条件の物件であったり、賃貸人が今後利用する可能性がある場合には、積極的に活用していきたいですね。
一時使用の賃貸借契約
興行、催事、建設飯場、展示会の開催など、一時的にしか使用しない場合、借主保護規定を適用する実益も乏しいことから、借地借家法の規定の適用が除外されています。
この一時使用の賃貸借契約については、①短期間に限って賃貸借契約を存続させる合意が成立していること、②一時使用目的の合意であることを基礎づける客観的事情の2つが必要とされています。
第6 不動産の問題に弁護士が携わる意義とは
不動産は、誰もが生活の拠点として利用し、事業活動を行っていますが、それを規律する法律関係は必ずしも単純なものではありません。
トラブルに発展する前に、法律ではどのような規定となっているか、仮にトラブルに発展した場合にはどのような見通しを持てばよいかを知っておくことは、非常に大切なことと思います。
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