悪質なクレーム(不当要求)対応の方法については、多くの相談を受けるようになりました。
 その背景に、以前は不当要求といえば反社会的勢力に所属する方々の十八番でしたが、現在はいわゆる一般の方も不当要求を行う事例が多くなっている社会背景が存在するように思われます。

 本ブログでは、悪質なクレームに対する対応要領、コツについて記載しました。

第1 クレーム対応の流れ ~ 正当クレームか悪質クレームかを見極めること

1 はじめに

 クレームは、日常的に接する顧客からの商品改善やサービス改善の契機にもなる大切な意見です。

 しかし、過大な要求、悪質な要求などの不当要求は、その対応により通常業務に支障を生じ、会社経営に悪影響を及ぼす恐れが大きいことから、正当なクレームとは異なる対応が求められます。

 なお、正当クレームと判断できる場合の対応については、クレーム対応マニュアルなど、弁護士が書くより優れた書物やノウハウがたくさん出ておりますので、悪質なクレーム対応を中心に記載しています。

2 クレームに対する初期対応手順・流れ

 まず、顧客からクレームがあった場合には、そのクレームがどのようなものか、事実に合致しているのか、その要求は正当なものといえるのか、相手のクレーム内容を把握した上で、事実確認を行うことから始めます。

 クレームに対応する下図の流れは、どのような場合にも必ず行うようにしてください。

 悪質クレーマーであればあるほど、このプロセスを破壊し、恫喝等により途中経過を飛ばして、一気に「対応」を求め自己の要求を受け入れさせようとします

 特に、深刻な案件(不当クレーム)ほど、このプロセスを徹底します

 クレーム対応は、新たな事実が分かったり、顧客から新たな主張があったりしても、以下のプロセスに則って、徹底的に繰り返すことが肝要です。

クレームの内容確認、特定を行います
相手が求めている内容が、謝罪なのか、賠償なのか等を把握します。
この段階では、貴社はどうしてくれるの?など、主張内容を明確にされない場合もありますが、その場合であっても、どのような事実を根拠としてクレームを述べているかは、必ず把握します。
初期対応においては、まだクレームの妥当性が分かりません。常識人であっても、自らが不当な扱いを受けると当然感情的になりますので、慎重に対応します。
事実関係の調査、把握をします
①誰が、②いつ、③何に対して、または誰に対して、
④どのような状況、事実関係の下において、
⑤どの製品、またはどのサービスによって、
⑥どのようなことが生じたか、
⑦その後、どうしたのか、

⑧どのような証拠をもって、⑨どのような根拠で、⑩どのような手続を利用して、
⑪どのような解決を求めているか、
⑫顧客等の氏名、電話番号、住所、連絡先、
⑬顧客等のクレームの提起の動機・目的、
⑭顧客等のクレームの提起に至るまでの経緯、
⑮顧客等の性格、生活状況、職業、
⑯顧客等の経歴や相談者の存在の有無など、
の各事項を確認していきます。①から⑦まではほぼ必須ですが、⑧以降は聴取できる範囲でケースバイケースにならざるを得ないと思います。
法的責任の有無・程度の判断、検討をします
認定できた事実関係を基にして、どのような対応を行うべきか検討します。
特に法律的にどこまでの責任が発生するのかについては、弁護士などの専門家に判断を仰ぐと良い部分です。
対応方針を決定し、具体的対応にあたる。
対応方針が決定したら、その方針に則り、一貫した対応を行っていきます。
この対応方針の決定にあたり考慮すべき要素、考え方の筋道は、下に続く説明において、さらに解説します。

3 正当クレームと悪質クレームの見極め

 それでは、クレームが正当なクレームか、不当なクレームは、どのような点に着目して判断すればよいでしょか?

 これは、要求「内容」、「方法」に着目して判断します。

 正当性の判断にあたり、法律上の判断が必要な場合には、迷わず専門家に相談しましょう。この判断を誤ると、取り返しのつかない過ちになりかねません。

 そのため、この事実調査とそれに基づく正当性判断はしっかりと行うべきです。この手間を省いて軽率に対応しないことがとても大切です。

 調査の結果、クレームの「内容」、「方法」が不当と言えれば、それは不当要求として対応を行うべきです。

 すなわち、正当なクレームとは、クレーム内容に、(a)法律上の根拠があり、かつ、(b)要求内容が適正で、かつ、(c)要求方法に相当性があるもの、になります。

この要件を1つでも満たないものは、不当要求と判断して差し支えありません。

ポイント

要求「内容」、「方法」に着目して正当クレームか悪質クレームかを判断します。

要求「内容」が不当~義務のない要求、過大な要求など

要求「方法」が不当~威嚇を伴う、恐喝を伴うなど

【要求内容が不当の例】
 ・高額な慰謝料の請求
 ・迷惑料の要求
 ・正当理由のない返品・返金要求
 ・新品、上位機種との交換
 ・土下座の要求
 ・社長の謝罪を要求
 ・「責任者、上司を出せ」との執拗な要求
 ・自宅等に呼びつける
 ・即時の回答、約束を要求
 ・「今すぐ書面を書け」との要求
 ・「誠意を見せろ」、「自分で考えろ」の要求   

【要求方法が不当の例】
 ・怒鳴る、怒る、乱暴な口調
 ・突然のアポイントなしでの訪問
 ・店頭や会社への長時間の居座り
 ・長時間の電話
 ・「役所やマスコミに言いつける」、「ネットに書く」
 ・会社の言い分を全く聞かない
 ・担当者を勝手に指定する
 ・言葉尻を捉えて攻撃する
 ・「以前にもしてもらった」、「他にしてもらった人がいる」と強弁

4 正当性判断後の対応

⑴正当クレームへの対応

 正当クレームと判断できるものには、誠意をもって応対すべきです。

 正当クレームを真摯に受け止めずに対応を誤れば、インターネット上に書き込まれたり、訴訟問題にもなりかねず、企業レピュテーションにも大きな棄損が生じます。

⑵不当クレームへの対応

 不当クレームと判断できるものに対しては、その要求を直ちに受け入れるべきではありません。

 会社に非がある場合には、それに応じた損害賠償等を行うことになります。その上で、過大であったり、支払義務がないものに対しては、支払うことができないことを顧客に伝えます。

 会社として、要求に応じることが困難であることを明確に伝えた上でも、なおも同様の要求を繰り返す場合には、これ以上の交渉も行う意向がないことを伝え、関係の断絶を図ります。

 それにもかかわらず、要求が継続される場合には、弁護士や警察など、外部の協力を得て対応にあたることが望ましいと思われます。

⑶留意点

 正当クレームと不当クレームの判断は、簡単に行えないケースも存在します。

 経済的利益を求めてくる場合、その金額が高額になればなるほど当然ながら慎重な確認をしなくてはなりません。逆に、比較的軽微なものであれば、見るなり、話を聞くなり、話の内容が合理的で矛盾ないものであれば、それなりの対応をすることになります。また、常習的なクレーマーか1回限りのクレーマーかなどの要素も判断に影響を及ぼします。

 顧客を敵対者に変貌させない注意が必要な一方、悪質なクレームはもはやお客ではありませんので、取引断絶を図っていかなくてはなりません。

 そのためにも、クレームを述べてきた顧客の言い分をよく聞く(事実調査)が、なによりも肝要になります。

 正当クレームか不当クレームか、判断が迷った場合には、次のお客様平等主義で対応できるかどうかを考えてみると、方向性が見いだせる場合があります。

 

正当クレームと不当クレームの判別に困ったら、、、

「お客様平等主義」

   ●相手方の要求に応じなければならない法的義務があるか?

    YES → 応じなければならない

    NO  → 必ずしも応じなくても良い

   

   ●すべての者に、同様の対応・サービスをできるか?

    YES → 応じても良い。応じるのが望ましい。

    NO  → 応じてはいけない。

第2 悪質クレームに対する基本姿勢

1 「契約自由の原則」を武器に使う

 クレーマーの主張内容や要求態様に照らし、悪質クレームと判断できる場合には、毅然とした対応を行うべきです。

 当方に過失があったとしても、その過失の範囲において責任を負うことは当然ですが、それ以上の責任を負うことはありません。

 それ以上の要求に答えられないことに対し、毅然と対応して全く問題ありません。

 悪質であればあるほど、もはや「お客様」ではありません

 組織としての方針をぶれずに示すことが大切です。

 これが行政機関や学校の場合、対応は非常に難しい面があります。

 しかし、私たち民間業者は、万人に対して物を売ったり、サービスを提供する義務はありません。

 誰を取引相手とし、誰を取引相手から除外するのかは、その事業者の自由です。

 悪質なクレーマーは、この契約自由の原則を根拠として、取引から除外します

 そして、契約自由の原則から、取引相手を選ぶ権利がある以上、取引を除外する理由について、説明する義務はありません。

2 組織的対応 ~ 社内体制の構築

 クレーム対応窓口が定まっていないと、クレームを述べてきた顧客がたらい回しになったり、対応が場当たり的になったりして、さらに状況が悪化する恐れがあります。

 このようなことを防止するために、苦情相談窓口を設置しましょう。

 情報を集約化でき、統一的な対応を可能とします。

 その上で、クレームには、社内で共有すると共に、苦情相談窓口以外はクレーム対応を行わないという社内ルール、社内体制を確立しておきましょう。

 会社の人員が多くない場合でも、危険分散の観点と、窓口担当者のストレス過重を避けるため、複数人を担当窓口に設定しておくことが望ましいです。

 特に悪質クレームであれば、1人に対応を任せることは絶対に避けましょう

3 初期対応からのクレーム対応の流れ

 下の図は、当方の過失割合に応じて、左から過失の程度が低い場合に、初期対応からの対応の流れを記載しました。

初期的なクレームに対する対応

クレームの事実確認を丁寧に行うことが、クレーム対応の肝です!!
不手際も過失も
説明責任ない
会社に責任がないのであれば、曖昧な対応は避け、責任がない旨を毅然と説明する
些細な不手際や過失がある
ミスがあれば認め、誠実に対応し理解を求める
重大で明らかな過失がある
法律や会社方針の範囲内で謝罪や賠償を行う

このような初期対応によっても収まらない場合には、悪質クレームへと発展していくことが多く、以下の対応が必要になります

執拗に言いがかりを付け責任を転嫁し過度な要求をする
些細な不手際を悪意を持って攻撃し責任追及しながら過度な要求をする
欠陥や損害等を膨大に強調し責任を過激に追及しながら合理性を欠く過度な要求をする
組織としての基本的な対応
•組織の基本方針に従って担当者が対応、過度な要求は毅然と拒否する
•状況によっては、弁護士を介して法的に解決する
•早期に警察や暴追センターに相談する
•違法行為は、警察に被害届を提出し、法的に措置する

第3 悪質クレームに対する具体的対応要領

 さて、巷でも、そしてここでも書いていますが、「毅然と対応すること」とは、どのような対応を行うことでしょうか。

 相手の要求を安易に飲まない様子は、何となく言葉から想像できるかもしれませんが、それでは具体的に何をどうするのかのイメージをしっかり持っている方は少ないのではないかと思います。

 この機会にしっかりと、悪質なクレーム、不当要求に対する具体的な対応のイメージを持っていただき、できれば企業や組織、グループなどで共有いただければと思います。

1 言葉遣いは丁寧に

 毅然とした対応とは、相手に対して口調や態度まで厳しくされる方がいらっしゃいますが、これは明確な間違いです。

 むしろ、相手に付け入る余地を与えてしまいかねません。

 あくまでも言葉遣いは、丁寧にしましょう。

2 悪質クレーム(不当要求)対応のゴールは、「平行線を作ること」

 悪質なクレームは、そもそも会社に対応する義務のないこと、対応しなくても良いことを押し付けるものです。

 クレーマーに対して、そのことを理解してもらえれば、一番良いのでしょうが、それを理解してもらえないからこその悪質クレーマーです。

 そのため、そもそも相手に理解してもらおうという気持ちがあっては、悪質クレームの対応はできません。

 大切なことは、相手に理解してもらおうという気持ちではなく、「相手に諦めてもらう」ことです。

 これはまさに、「言うは易く行うは難し」で、悪質クレーム対応には、どうしてもある程度の時間と労力が必要になります。

 目指すべきゴールは、相手の要求には全く応じられないという状態を作ることです。

 いわば、相手と全く分かり合えない、落としどころも見いだせない状況を作ります。

 これが、相手と平行線を作ることです。

 そうすることで、相手は歩み寄ることもできず、落としどころを探ることもできず、諦めるしか方法がないと気が付きます。

 対応がブレたり、安易に落としどころを探ろうとすると、相手はどこかに歩み寄れる場所、妥協点を見出そうと引かなくなりますので、ひたすら平行線を作ること。

これこそが、悪質クレームに対応する極意です。

悪質クレーム(不当要求)対応の心構え

  • 最初からある程度時間・労力をかける覚悟を持つこと
  • 一発解決術はない。
  • ただし、最終的に必ず解決させる → 決して逃げ腰にならず、前向きな気持ちで対応できます
  • 時間・労力を最小化させるノウハウがあると気持ちに強みが出ます

3 具体的な事例集~やり取りのコツ

 それでは、対応の目指すべき方向性をイメージできたら、実際の参考事例を基にして、さらに理解を深めていきましょう。

 即答、約束を避けること、それを理由に相手から責められたとしても、それが正しい対応であると自信を持てば、後は経験が強くしてくれると思います。

対応フレーズ集

シチュエーションフレーズ
相手の言っていることが分からない場合事実関係を確認させていただけますか。~について教えていただけますか。
やりたくないことを要求された場合〇〇することは、弁護士(会社の規則や第三者などを挙げてもOK)により禁止されています。
確約を求められた場合(拒否した上で)不確かなことをお約束することは、かえって不誠実になってしまいます。
〇〇するぞと言われた場合お客様の判断に対し、申し上げられる立場ではありません。(「然るべき手段を取らせていただきます。」と追加しても良い)
謝りたくなった場合お手数おかけして申し訳ありません。

対応想定問答集

回答に時間がかかるじゃない、そんなのすぐに答えを出せるでしょ!!

事実関係を確認した後に、回答させていただきます。

他の方でさぁ、こんな風に対応してもらった方がいるって聞いているよ!なぜそれができないの?

事実関係を確認させていただいてから返答致しますので、

その方について教えてください。

あんたじゃ話にならないから、上の人を呼んで!!

本件については私が担当者ですので、引き続き対応致します。

ずっと話しているけどさ、本当に誠意ないね!!

誠意とは、具体的にはどのようなことでしょうか教えてください。

ネットに書こうかな。お前の言葉1つで会社の運命変わるな!!

お客様のご判断について、とやかく申し上げる立場にありません。

但し、違法な手段については、然るべき措置を執らせていただきます。

会社ができなくても、お前個人で対応できるだろ?

そのような対応は致しかねます。

(最後に)「すみません」、「申し訳ございません」は、禁句か?

 クレーム対応の実践例等の書籍や資料等の中には、このような文言を使うことは、自己の非を認め、相手に付け入る口実を与えるために良くないと紹介しているものがあります。

 私は、このような言葉を使ってはいけませんとすると、担当者が気を遣うことで委縮したり、ここに気を取られることが心配なため、禁句とは考えていません。

 過去の裁判例等においても、謝罪の言葉を使ったことを理由として賠償責任を認めるなどは存在しないように思われます。

 少なくとも、気分を害されたり、お手を煩わっているという事実自体はあるため(クレーマーが勝手にエネルギーを注いでいるとしても)、その事実に対して謝罪をすることは問題ありません。相手の感情を沈下させる効果もあると思います。

 相手に揚げ足を取られないように、しっかりと謝罪の対象を明確にすることが大切と考えています。

対象を明確化しよう!!

  • ご気分を害されたのであれば、すみません。
  • お手数をおかけしまして、申し訳ございません。
  • 不快の念を抱かせましたことをお詫びいたします。