【地主の疑問】

地主(土地所有者)が、借地人の方から金融機関に提出する承諾書を書いて欲しいと言われました。これはどうして必要なのでしょうか?と疑問に思っている。

借地上の建物に抵当権を設定する場合、金融機関は地主に対して「承諾書」の提出を求める運用が行われています。

この承諾書は、借地人が建物建築にあたって融資を受ける場合には、必要不可欠なものといえます。

地主にとっては、借地人と金融機関の関係に巻き込まれるような形となりますが、円満かつ円滑な借地契約成立のために、提出していることが多いものと思います。

そこで、この承諾書にはどのような意味合いがあるのかを詳しく解説します。

記事の内容は、承諾書とは、どのようなものか?
なぜ承諾書を求められるのか?
地主の承諾書を提出するメリットは?について解説します。

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第1 (前提知識)借地権付き建物と抵当権の法律関係について

1 抵当権の効力 ~ 借地権にも及ぶ

借地人が金融機関から融資を得て建物を建築する場合、建物に抵当権を設定することが一般的です。

わが国では、土地と建物が独立した不動産とされていますので、借地上の建物について、建物だけに抵当権を設定することができます。

この場合、借地上の建物に設定された抵当権の効力は、敷地利用権たる借地権にも及びます。

建物に対する抵当権の設定により、抵当権の効力は建物だけでなく、敷地利用権たる借地権にも及びます。
建物への抵当権は、敷地利用権たる借地権にも及びます

2 競落人(買受人)は借地権も取得する

抵当権が実行されて競売がなされると、借地権は買受人に移転することになります。

つまり、買受人は、建物所有権を落札すると、借地権も取得しますので、分かりやすく言えば地主との関係では「借地人」となります。

借地権付き建物を競売により落札した買受人は、建物所有権のみならず、敷地利用権たる借地権も取得します。
買受人は建物所有権と敷地利用権たる借地権を取得します

3 買受人と地主の承諾

競売で借地権付き建物を買受けた場合にも、借地権の移転には地主の承諾が必要となります。

そして、地主が借地権が移転しても不利となる恐れがないのに承諾しない場合には、地主に代わって裁判所が譲渡を許可する制度があります(借地借家法20条)。

この制度により、借地上の建物が競売にかけられたとしても、買受希望者は安心して入札に参加することが出来ます。

借地権付き建物を競売・公売により落札した買受人は、土地所有者(地主)が譲渡を承諾しない場合には、裁判所に賃貸人に代わる許可の申立てをすることができます(借地非訟:借地借家法20条)。
地主が承諾せずとも、買受人の保護が図られます

4 抵当権の効力と建物の滅失

借地上の建物に抵当権を設定し、借地人は融資を受けることが可能です。

もっとも、借地人が地代を不払いとなってしまい、借地権が債務不履行解除されると、建物は敷地利用権を失って無価値となり、取り壊されると抵当権も消滅します。

敷地利用権たる借地権が存続している場合であっても、借地上の建物が消滅すると、建物に設定された抵当権も消滅します。
建物がなくなると、抵当権も消滅します

抵当建物が滅失した場合は、借地人が故意に建物を取壊したか不可抗力で滅失したかを問わず、建物抵当権は消滅します。

第2 「地主の承諾書」の意義(金融機関の視点から)

1 地主の承諾書を求める理由

金融機関が、借地権付き建物に対して抵当権を設定して借地人に融資をする場合、最も恐れていることは借地人に賃料(地代)不払いによる債務不履行解除です。

金融機関としては、借地人の地代不払いの事実を知ることができれば、借地人に代わって弁済し、抵当権の消滅を防止することが可能です。

そこで、借地上の建物に抵当権の設定を受ける場合に、金融機関はあらかじめ地主から承諾念書を取得することが一般的です。

弁護士 岩崎孝太郎

所有権土地の建物と異なり、借地権の上に建つ建物は地代の不払いなどの債務不履行によって解除されてしまうと、建物は適法に撤去されてしまうので、担保を確保するという抵当権の意味がなくなってしまいます。

金融機関にとって、担保価値を保つための手段が、地主の承諾書になります。

もちろん、地代の引落口座を融資する金融機関の口座にしてもらい、支払状況を継続的にチェックする対策も同時になされることが多いです。

2 承諾念書の内容

金融機関が地主に対し求める承諾書の内容は、各金融機関によって異なり様々といえますが、主には次のような内容です。

  • 借地上の建物を抵当に入れることを承諾する
  • 契約解除事由が発生した場合には抵当権者に通知する
  • 抵当権の実行等により建物の所有権が移転しても譲受人に引き続き土地を貸す(譲渡の承諾)

また、その取得方法についても、金融機関が直接地主に依頼をするか(借地人を通じて取得するか)、写しを地主に交付するかなど、金融機関によって様々です。

第3 地主と金融機関の関係

1 地主が担保設定への承諾する意味とは?

借地上の建物に抵当権を設定する場合に、地主に承諾を得ることは法律上の要件となっていません。

もっとも、土地の賃貸借契約において、借地権や借地上の建物を担保提供することを禁止する特約が定められている場合があります。

そのため、地主が担保設定の承諾をすることは、このような特約の有無にかかわらず、有効な担保権の設定を可能にできる意味があります。

それのみならず、地主として借地権の存在を認めていることでもありますので、金融機関にとっては、借地権の存在の確認になる意義があります。

2 担保物件売却時の借地権譲渡の承諾について

担保権実行としての競売や任意売却がなされると、建物の所有権は買受人に移転することになり、借地権も賃借人から買受人に移転します。

ただ、賃借人が借地権を譲渡するためには地主の承諾が必要となりますので、承諾書によってあらかじめ承諾を得ることとしています。

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3 借地人に債務不履行がある場合に地主が金融機関に通知する義務

借地人に債務不履行がある場合に、地主に金融機関に対して通知する義務を負わせる条項は、地主からの債務不履行解除の前に金融機関が対策(借地人に代わって地代を支払うなど)を行うためのものです。

それでは、承諾書に反して地主が賃料不払いを金融機関に通知せず、賃貸借契約を解除した場合、地主は何らかの責任を負うのでしょうか。

金融機関への通知を法的義務とした判例(最一小判平22.9.9)

最高裁は、地主が承諾書を提出していたにもかかわらず、金融機関に地代不払いについて通知せず、賃貸借契約を解除し、建物が収去されて抵当権が消滅した事例において、地主は金融機関に対して損害賠償の責任を負うと判示しました。

ただ、損害賠償請求することが信義則に反する場合は別との留保が付され(判例の事案では、地主が不動産事業者であり、承諾書の文言についても修正を依頼した事実などから、信義則に反するものではないと認定されました)、損害については金融機関に8割の過失を認定し、賠償額を大きく減額しています。

✍ 最高裁判例のポイント

●地主の通知義務を、法的義務であると明言したことに先例的価値があります。

●損害額は、建物の価値3,000万円の半額から、1年間の地代を差引いて算定しました(その上で8割の過失相殺をしました)。

●判例のケースでは、地主が不動産賃貸借を目的とする会社であり、承諾書の意味を理解できたという要素が大きく評価されているため、この結論を一般化することはできないと考えられています(地主に賠償責任を負わせても信義則に反しないか、個別事例で判断されます)。

●過失相殺は、①承諾書を借地人を通じて徴求したのみで、金融機関は地主に対して直接の説明をしておらず写しも交付していない点や、②金融機関は自ら問合せを行うべきで、地主からの報告に頼るべきものではない点、③金融機関は借地人の経営状態の悪化を知っていたのに自ら賃料の支払状況などの情報収集を怠った点、などが考慮されました。

4 地主にとって承諾書を交付する意味はあるか?

上記判例を前提にすると、賃貸人である土地所有者は、何らの対価を得ることもなく長期にわたり通知義務を負い続けることになり、極めて不公平ではないかとの疑問が生じます。

地主

借地人が融資を得るために、いわば善意で協力しているだけです。

承諾書を提供することで、通知することが法律上の義務となるならば、金融機関には通知義務の記載ない承諾書を求めたいと思います。

通知義務を法的義務と理解する場合、地主からすると、一方的な負担のみを課せられるもので、なかなか理解しづらいものでしょう。

この地主の不利益については、宮川光治最高裁判事の補足意見が参考になりますので、長文ですが引用します(黄色線は筆者が加筆)。

【補足意見】

「土地賃貸人にとっては、いったん借地契約が締結されれば約定賃料が滞ることなく支払われるということが最重要の関心事であると思われる。
賃借人に賃料の支払遅滞が生じた場合、そのことを抵当権者である金融機関に通知すれば、金融機関から滞納分はもとより向後の賃料についても弁済(代払い)を受けられる可能性が高い。

本件のように通知をしないで賃貸借契約を解除し建物の収去を求めて争訟すると、賃貸人は相当期間にわたって賃料収入を失い、更には建物の取壊し費用を負担しなければならないことともなる。
経済的合理性に反するのに、あえて、賃貸借契約を終了させようとしている事例には、賃借人と通謀していることが疑われる場合もあろうが、新規賃借希望者がいてこれと新たに賃貸借契約を締結するという意図を有している場合が少なくない。

…(略)…一般に多くみられるのは、借地人が地上建物を建築する資金を金融機関から借り入れる場合である。
こうした事例では、賃貸借契約締結の際に、借地人が金融機関から資金を借り入れるために必要な協力をすることが約定され、通常はその対価も権利金額等の設定において考慮される。
こうした協力をして、土地賃貸借契約の締結が円滑に実現することは、賃貸人にとっても大いに有益なことであろう。

以上のように考えると、本件事前通知条項に基づく通知義務を法的義務であると解したとしても、賃貸人にとって均衡を失して不利な事態となることはまれであり、通常は賃貸人にとっても土地賃貸借から収益を順調に上げていくという点では不都合はないように思われる。
それでも残る問題は、信義則、過失相殺の法理により、適切に対応できると考えられる。」                                                                                                                                                                                            

弁護士 岩崎孝太郎

地代が不払いとなれば、地主は適法に建物を収去して、借地権の負担のない土地所有権を取得することが出来ます。

ただし、地代を滞納してしまう借地人には経済的余力がないことが多い一方で、借地権を適法に解除するには裁判を行わなくてはなりません。

さらに、強制執行による建物の取壊しまでも自己負担で行う必要があります(もちろん借地人に請求できますが、回収できないケースばかりでしょう)。

この一連の手続の期間中、地代の支払いは一切止まっている状態が継続することとなります。

そうであれば、地主は金融機関に通知をすることで、金融機関より地代の支払いを受けることができ、借地権が譲渡された後も支払能力に問題のない借地人と代わることで、借地契約が安定して継続させることができます。

法的義務を認める一方で、最高裁の事例でも金融機関に8割の過失を認めるなど、地主に過大な責任を負わせないよう、個別事案に応じて適切な解決案を見出しているともいえます。

宮川判事の補足意見にもあったように、地主にとっても(価値判断は個々の意見があり得ますが)、承諾書は円滑に借地契約を継続するための方策といえるでしょう。

なお、通知までを法的義務と捉えたとしても、通知をせずに行った解除が無効とはなりません。
解除権は、契約関係を終了させる地主の重要な権利ですので、その権利そのものを奪うことまではできないと考えられるためです。

第4 借地人と金融機関(抵当権)の関係

1 承諾書は融資を受けるために必要不可欠なもの

借地上の建物に抵当権を設定する場合、「地主の承諾書」は法律的には不要なものです。

もっとも、実務上の運用として、地主の承諾書がない限り、融資を受けられないことが多く、融資を受ける借地人にとっては必要不可欠なものといえます。

弁護士 岩崎孝太郎

借地人にとっては、特に第三者への売却を地主に反対され、借地非訟を申立てた場合に、地主から承諾書をどのように取得するかで悩むケースが多いです。

2 借地上の建物について

借地上の建物に抵当権を設定した場合、金融機関の承諾なしに建物を取壊した場合は、違法な取壊しとなります。

また、借地権の放棄や地主との合意解除なども、金融機関(抵当権者)との関係において違法行為となります。

このような違法行為は、担保物件の棄損行為として、融資返済の期限の利益を失い、一括での返済を求められることになります。

抵当権の設定された建物の取壊しは、たとえ所有者であっても抵当権者の承諾なしに取壊すと、建造物損壊の罪(刑法260条、262条)という刑事罰が成立する点にも留意しましょう。

なお、建築基準法の違反建築物として建物の除去命令等があった場合(建築基準法9条、都市計画法81条等)などは、建物は適法に取り壊されることになりますが、借地人は金融機関に対して担保提供義務違反にはなりますので、期限の利益を失い、一括での返済を求められることになります。

建物を建替える場合

旧建物と新築建物は、物理的に別の物件になりますので、旧建物に設定された抵当権が新築建物に存続することはありません。

そのため、旧建物の登記について滅失登記した上で、新築建物について新たに抵当権を設定し直す必要があります。

第5  地主(土地所有者)の方へ

地主の承諾書を求められた場合に、知っておきたい前提知識を中心に解説をしました。

内容は概ね理解できたとしても、果たして本当にこの内容にサインをして良いのか、文言の修正を依頼すべきではないかのか等、不安は尽きないと思います。

そのような場合には、借地権に詳しい法律家へのご相談をお勧めいたします。

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