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カスタマーハラスメントという言葉をよく耳にするようになりました。
カスタマーハラスメントには、どのような被害がありますか?
また、どのような対策を執る必要がありますか? -
「カスタマーハラスメント」(カスハラ)という言葉は、いつの間にか身近なものになってしまいました。
その原因については、顧客至上主義やサービスの過当競争、格差意識の広がりなど、様々な指摘がなされています。2017年に🔗UAゼンセンが行った調査では、業務中に客から迷惑行為を受けたことがあると答えた労働者は7割以上にものぼっています。
ドキュメンタリー番組(クローズアップ現代🔗「暴言に土下座!深刻化するカスタマーハラスメント」)でも特集され、厚生労働省も対策に乗り出すなど、大きな社会問題となっています。
各企業においても、カスタマーハラスメント対策をしっかり行わないと、従業員が心身共に疲弊し、人材流出のリスクを負うだけでなく、労災リスク、生産性の低下など影響は計りしれません。
「カスタマーハラスメント対策啓発ポスター」(厚労省)
この深刻化するカスタマーハラスメントに対し、会社組織はどのような対応を行っていく必要があるのか、解説をします。
(まとめ記事)弁護士が伝授【クレーム・クレーマー対応】悪質・不当要求と戦う指南書
第1 カスタマーハラスメントとは
1 カスタマーハラスメントとは
「顧客等からのクレーム・言動の内、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」を言います(厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」における定義)。
パワハラと異なり、まだ法制化はされていませんが、パワハラ防止法の🔗指針においてカスタマーハラスメントについて言及されています。
令和4年2月には、厚労省が対策マニュアルを作成しており、企業としてもその対策を十分に行う必要があります。
(参考にしたいURL一覧)
【参考】🔗カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(厚生労働省)
【参考】🔗2022年2月厚生労働省報道発表資料
【参考】🔗職場のハラスメントに関する実態調査報告書(厚生労働省委託事業)
【参考】🔗悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査分析結果(UAゼンセン)
【参考】🔗UAゼンセンのハラスメント対策の取り組み(UAゼンセン)
2 カスタマーハラスメントの具体例
カスタマーハラスメントの具体例として、次のような類型が挙げられます。
- 暴言
・「バカ、死ね、辞めろ」
・「デブは仕事ができない」 - 威嚇・脅迫
・「ぶっ殺すぞ」
・「仕事のできない体にしてやる」 - 執拗なクレーム
・「謝罪文書」を出せと毎日来店する
・「担当者の態度が悪い、クビにしろ」と1時間おきに電話する - 権威的態度
・「俺は地元の顔だ。お前などすぐにクビにできる。」
・(価格誤表示のミスに対し)「悪徳商法か。新聞に謝罪広告を出せ」 - 長時間の拘束
・(商品にカビが生えていると言い)5時間にわたり従業員を立ちっぱなしで拘束させる
・電話で何時間も話し続ける
また、「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度厚労省)では、
「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)、
「名誉棄損・侮辱、ひどい暴言」(46.9%)、
「著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要等)」(24.9%)と続いています。
🔗「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度厚労省)
3 カスタマーハラスメントの被害
🔗「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度厚労省)
「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度厚労省)によると、顧客等からの著しい迷惑行為を受けての心身への影響としては、「怒りや不満、不安などを感じた」(67.6%)の割合が最も高く、次いで「仕事に対する意欲が減退した」(46.2%)が高くあり、就労意欲への影響は必至となっています。
それだけでなく、経験頻度別にみると、「何度も繰り返し経験した」の割合が最も高く、同層では
・「眠れなくなった」(21.2%)、
・「通院したり服薬をした」(8.8%)の回答もあり、
極めて深刻な影響が生じる点を見落としてはいけません。
4 カスタマーハラスメントで会社に問われる法的責任
このように従業員に対する影響は大きく、会社としてカスタマーハラスメントに対し適切な対応を取ることが求められています。
これは、労働契約に基づく安全配慮義務に基づくもので、カスハラを放置等する場合には、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求を受ける恐れがあります。
会社の責任が認定された事例
東京地裁 平成11年4月2日判決
男性顧客のストーカーにつきまとわれた女性社員について、会社に危害防止のための必要な措置をとる義務があるとされました。
「従業員が顧客から暴行、傷害、脅迫等の被害を加えられることが予見される場合、使用者は、それを防止するために必要な措置を執るべき義務(安全配慮義務)を負うと解するのが相当である。なお、どのような措置を執るべきかは、具体的状況に応じて判断すべきである。
東京地裁 平成25年2月19日判決
看護師が勤務中に入院患者(せん妄、認知障害あり)から暴行を受け負傷した事案について、勤務先の病院に対する損害賠償請求を認めました。
「看護師の身体に危険が及ぶことを回避すべく最善を尽くすべき義務があったというべきである。・・・患者による暴力行為があり得ることを前提に、看護師全員に対し、ナースコールが鳴った際・・・直ちに応援に駆けつけることを周知徹底すべき注意義務を負っていたというべきである。」
会社の責任が否定された事例
東京地裁 平成30年11月2日判決
小型食品スーパーマーケットの従業員が、客による暴言等があったとして、会社の安全確保配慮懈怠で生じた損害賠償を求めましたが、会社の義務違反を認めず、請求を棄却しました。
「入社時にテキストを配布して、苦情を申し出る客への初期対応は指導していたし、店舗マネージャー不在時には「サポートデスク」や近隣店舗のマネージャー、エリアマネージャーに連絡をすることができる態勢にあり、店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が整えられていた。・・・店舗マネージャーやエリアマネージャーの緊急連絡先や近隣店舗の連絡先が掲示されており、トラブルに対して正社員に相談して、指導を受けたり対応を求めたりする体制が整えられていた。また、各店舗のレジカウンターには、非常事態に備えて通報用の緊急ボタンが設置されており、その存在は従業員に周知されていた。そして、被告会社は、深夜の従業員を1名ではなく必ず2名以上の体制とし、一人が接客をしながら他の一人が相談及び通報等をして接客トラブルに対応することができるようにしており・・・被告会社が、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を欠いたと認めるに足りる証拠はない。」
第2 会社としてカスタマーハラスメント対応体制を確立させましょう
1 会社が行うべき対策
- トップがカスハラ対策への取組姿勢を明確に示すこと
- カスハラ概念の明確化と組織的対応体制を構築すること
- 従業員への教育・研修の実施
2 ①トップがカスハラ対策への取組姿勢を明確に示すこと
企業として、基本方針や姿勢を明確にすることにより、企業が従業員を守り、尊重しながら業務を進めるという安心感が従業員に育まれます。
企業の姿勢が明確になることで、カスタマーハラスメントを受けた従業員や周囲の従業員も、トラブル事例やその対応に関して発言がしやすくなり、その結果、トラブルの再発を防ぐことにもつながります。
分かりやすく明快に示しましょう。
良い例
〇「悪質クレームには毅然と対応する方針であることを示す」
〇「顧客至上主義には例外があることを示す」
〇「悪質クレームに毅然と対応できた場合にプラス評価する」
悪い例
×「悪質クレームに対する方針が曖昧であったり漠然としている」
×「抽象的に顧客至上主義のみを語る」
×「悪質クレームを受けたことをマイナス評価する」
3 ②カスハラ概念の明確化と組織的対応体制を構築すること
自社において発生しやすいカスハラを類型化し、判断基準を確立させましょう。
各社の業務内容、業務形態、対応体制・方針等の状況に合わせて、予め対応方法例を準備しておきます。
その上で、担当者⼀⼈に任せるのではなく、⼆次対応・組織的対応を講じます。
組織的に対応するメリットは、担当者に過度なストレスがかかることを防ぐだけでなく、会社として不適切な対応を行ってしまうことを防ぐこともできます。
同一人物が、別の部署(支店)等に同じクレームを持ち出すことは少なくありません。
組織的な体制を確立していないと、会社としての対応が統一できず、不当クレーマーに付け入る隙を与えてしまいます。
組織的対応をより実効化させるためには、弁護⼠・警察・⾏政機関等と相談・連携できる体制を構築しておくことも有用です。
小規模な店舗などであれば、現場従業員のみで適切な対応ができるよう基本的な対応方法を周知しておくことです。
むしろ小規模であればあるほど、組織的対応が行いにくいので、より重要性が高いことを認識しましょう。
【参考】 「組織的に対応する」とは?(不当なクレーム・悪質クレーマーの対応)
4 ③従業員への教育・研修の実施
顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームに対応できるように、日常から研修等を通して従業員への教育・研修を実施します。
可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施することが重要です。
その際には、中途入社の従業員や顧客対応を行うアルバイト等にも入社時に研修や説明を行うなど、漏れなく全員が受講できるようにしましょう。
対応マニュアルを作成し、会社内において共通認識を持つことが必要になります。
【推奨される研修内容の一例】
・悪質なクレーム(カスハラ)の定義、該当行為例、正当クレームとの区別
・カスハラの判断例(判断基準やその事例)
・パターン別の対応方法
・苦情対応の基本的な流れ
・顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点等)
・記録の作成方法
・各事例における顧客対応での注意点
・ケーススタディ
【参考】 平行線を作る問答集(例文)!クレーマー対応法の具体的イメージを持つ
第3 具体的な対応要領~カスハラにも対処法があります
1 事実関係の正確な確認
それでは、カスタマーハラスメントが発生した場合の具体的対応要領を記載します。
基本的な対応要領は、下の参考記事と同様に進めてください。
【参考】 悪質なクレーム(不当要求)対応の方法
クレームに対する要領は、顧客等からのクレームが正当な主張なのか、悪質なクレームなのかを判断するため、クレーム内容の事実確認(どのような証拠に基づくものか)を行い、要求内容の妥当性を判断します。
クレーム対応は、新たな事実が分かったり、顧客から新たな主張があったりしても、このプロセスに則って、徹底的に繰り返すことが肝要です。
不当要求(悪質クレーム)は、「今すぐ答えを!!」のように、このプロセスを破壊しようとします。
2 正当クレームと悪質クレームの区別
顧客等からのクレームが正当なものであるか否かは、次のように①その要求に法的根拠があるか、②要求内容が適正か、③要求手段・態様が相当か、の観点から区別します。
ただ、現実的には、この判断が非常に悩ましいケースも多く、毎回悩みながら対応を進めていくこともあるでしょう。
法的判断も含まれるところなので、判断に迷う場合には顧問弁護士等に相談をし、慎重に対応を行うことが必要です。
上の表のを図式化すると、次のようになります。
法的根拠があり(こちらに落ち度があること)、要求内容、手段・態様が適正なものは真摯に対応します。
【参考】 モンスタークレーマーとの決別~正当・不当クレームの判別方法とは?
3 悪質クレーマーは、「お客」ではない!!
顧客等の要求が「悪質クレーム」と判断できる場合には、この顧客等は「お客」ではありません。
交渉を打ち切る決断が求められます。
対応のポイント3つを紹介します。
①事実関係の確認は、遠慮しない!!大切な事は、正確に聴取すること。
前述しましたクレーム対応のフロー図にあるように、何よりも事実関係を正確に把握することが重要です。
そのため、重複となってしまっても、事実関係を確認することに躊躇してはいけません。
また言わなくちゃいけないのか?
何度同じことを言わせるのか?
俺が嘘をついているというのか?
大変重要な案件ですので(そのようにあなたが言うので)、
重複となっても事実関係を確認しながら進めさせていただきます。
②相手に条件提示させる
悪質クレーマーは、こちらから答えを出させようとします。
それにより、クレーマーから求めたものではないという言い逃れを作り、さらに高額な見返りという特別扱いを狙います。
しかし、その誘いに応じる必要はありません。
誠意を見せろ!
誠意とは、お金を払えという意味ですか?
そんなのは自分で考えろ!
考えたものを持って来いよ!
(回答例)
分からないので、ご意向を教えてください。
(すでに解決案を提示しているなら)
すでにお伝えしている以上のことは、何もできません。
③当方に非があっても、毅然と打ち切る!!(何も問題ありません)
典型的なケースが、暴言、土下座の強要などです。
そのような態度を取られる方とは、お話を続けることができませんと遠慮なく打切りましょう。
大声を上げる人に対しても、落ち着いた話し合いを促し、それができないならば、打切ります。
土下座して謝れよ!
お前はバカか?(アホか?)
お前なんかこの店にいらないよ!
そのような態度を取られる方とはお話ができません、お引き取りください。
俺は被害者だぞ!
お前のせいでこんなひどい目に遭ってるんだろうが!
(オウムのように繰り返して問題ありません)
そのような態度を取られる方とはお話ができません、お引き取りください。
【参考】 面談強要のクレーマー:面会する注意ポイント
【参考】 長時間拘束・多数回来店・暴言クレーマーの対応
【参考】 電話クレーム【多数回・長時間・執拗】切り方を例文付きで解説
【参考】 スマホで動画(写真)撮影をする悪質クレーマーへの対応法
第4 カスタマーハラスメントと刑事責任
1 カスハラは犯罪に該当し得ます!
UAゼンセンの調査結果の中に、「悪質クレームが犯罪に準ずることもあるといった認識が、十分に浸透していない可能性が考えられる」との指摘がありました。
カスハラは、犯罪に該当し得る行為です。
法律を知ることで、適正な対応を行うことができ、不当な被害から守ることに繋がります。
(UAゼンセンちゃんねる🔗「そのクレームは、もはや犯罪かもしれない」より引用)
カスハラでは、以下の類型は犯罪に該当し得るので、具体的なイメージを持っておくと現場対応にも活かせると思います。
- 不当な金品の要求 ⇒ 恐喝罪
- 暴力行為 ⇒ 暴行罪、傷害罪
- 不要な謝罪・土下座の強要 ⇒ 強要罪
- 大声で騒ぎ立てる ⇒ 威力業務妨害罪
- 殺すぞ等の害悪の告知 ⇒ 脅迫罪
- 長時間の拘束 ⇒ 強要罪(監禁罪)
- 退去しないで居座る ⇒ 不退去罪
- セクハラ行為 ⇒ 強制わいせつ罪、軽犯罪法、迷惑防止条例
2 カスハラで問題になり得そうな犯罪類型のイメージを持つ
また、いくつかの罪名について別記事で解説をしましたので、具体的なイメージを持つのに役立ててもらえたら幸いです。
【参考】 悪質クレーム(不当要求)対応で覚えておきたい「犯罪」行為類型
第5 最後に
カスタマーハラスメントは、違法かつ不当な行為により従業員の身体、生活をも壊しかねない行為です。
会社として毅然と対応するためにも、適切な体制を築き、少しでも被害を最小限に抑えられればと思います。
第6 カスタマーハラスメント対応と弁護士費用
1 当事務所の考え
不当なクレーム、悪質なクレーマーから会社を守るためには、会社が一丸となり毅然とした対応を行う体制構築が必要不可欠です。
そのためには、継続的な支援が必要不可欠なものと考えており、顧問契約の締結をお願いしています。
【クレーム対応基本プランの提供サービス】
クレーム対応案件における弁護士の活用法は、対応が困難、もしくは判断に迷う事例について、随時ご相談を行います。
そして、定期的に検討会を行い、対応の是非と同種事例への対応策を打合せします。
その上で、これまでに発生した事例に対する検証を行い、それを基にした対応マニュアルを整備します。
法的手続を除いて代理人としての窓口対応業務までも含めていますので、弁護士費用を予算化できますし、コスパ良く外注できる存在としてご活用いただけます。
1~2年の継続により、クレーム対応業務を内製化していき、通常の顧問契約にダウンサイジングしていくことも可能です。
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売上を上げるツールとしての顧問弁護士活用法!2 弁護士費用と提供サービスプラン
クレーム対応:基本プラン(6ヵ月~)
クレーム対応:代行特化プラン
弁護士への委任を個々の案件ごとではなく、予算を設定して毎月定額化させたい場合に、特化プランを準備しています。
目安として毎月3件程度を上限に想定していますが、個別相談いたします。
民事全般:基本プラン
上記は、クレーム対応用の特別プランですが、事件対応の一般的なプランもご利用いただけます。
この場合、毎月5万円~の月額顧問料(6ヵ月~)に、以下の事件対応費用(着手金+報酬金)となります。
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ご相談については、予約制となっております。
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相談時に必要なもの
事前に以下のものをご準備いただくと、ご相談がスムーズに進みます。
- 相談内容の要点をまとめていたメモ
- ご相談に関する資料や書類
ご相談(初回相談料:1時間あたり1万1,000円)
法律上の問題点や採り得る手段などを専門家の見地よりお伝えします。
問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。
※ご相談でお悩みが解決した場合は、ここで終了となります。
ご依頼
当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。
問題解決へ
事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。
示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。
クレーム・カスハラ対応には、会社のトップが不当クレームに対して毅然と対応する姿勢を明確にする必要があります。
大きなストレスやうっぷんが溜まっている社会であっても、会社を悪質クレーマーから守る戦いを、専門家としてサポートします。